夏である。そして、もののけの嫁が隣でぼやく言葉が意味をなさない。どうやら本格的に頭がイカレタようである。そのくせ、次から次へとわけのわからない象形文字を紙にしたためている。耳にタコができるとはよく言ったもので、おれの耳にもしっかりと足が8本生えたタコが棲み着いてしまったようだ。そのタコではないか。
「あああ、海外行きたいなあ」などと繰り返しぼやいている女は自分の嫁であり、現実である。仕事もしない、運動もしない、そんな女は海外などに行けるはずはない。
夏である。きっと今年も車のエアコンは効かないのだろう。
「さてと、写真でも撮ってくるかな」
夜風でも浴びに行くような気軽な雰囲気を全身にまとい、嫁は席を立った。そしてオレはどうにもならない宿酔に身体中が痺れてしまってスタバで動けないでいた。変な汗がこめかみに浮いて使い物になりません。昨晩は小田急線経堂駅前でサンバと阿波踊りという甚だ暴力的な取り合わせのお祭りへ。商店街をサンバ隊が通り過ぎたかと思うと次は阿波踊りの編隊が過ぎて行く。意味が分からないにも程があるのです。サンバの踊り子が振る覚悟の尻。妥協のない腹まわりを見るにつけ、二週間前に拉麺と絶縁した自分の身を思い出した。