「声」の仕事が深夜におよぶことは滅多にないのだけど、今晩に限ってはスタジオから解放されたのはAM3時。音楽制作の現場ではまあよくある時間ではあるけど、ナレーターの仕事はなにがEって、その拘束時間の短さ。とは言っても「クライアント」のOK待ちの仕事となると話しは別で、録音が速攻終わってもその「OK」を頂くまで辛抱強く現場で待ち続けなかればならない場合もあります。そして小生もオトナとして、プロとして、いつまででも待ちます、当たり前ですが。
しかし仕事の都合により深夜タクシーでしか帰投できないコト自体は実は大好物で。それはもれなく「居酒屋タクシー」を意味するからであります。深夜に「シラフ」のままでいる自分に不思議な気分になりながら、手近なコンビニで酒、肴をホクホク顔で買い込む。帰り道の距離によって求める酒量を調整するのですが、いつもより多めに買うのがポイント。そして小生の場合、帰りの距離が長ければ長いほど嬉しい。タクシーはもちろん、悠然と流すデラックスな「個タク」だけに照準を絞ることが肝要であります。なので必然と「居酒屋個人タクシー」ということになります。
今晩は東銀座からだったので、距離は申し分ない。お目見えした琥珀エビス、お気に入りのトリスハイボールジンジャー、熟成ふなぐち菊水、それぞれ一本づつを携えて革張りシートの新型クラウン後部座席に腰を落ち着けた。
個人的にはタクシーの運ちゃんとの会話は嫌いではなく、むしろ好む口ではあるものの、中にはおしゃべりで面倒な輩もいるので決して自分から会話の糸口を作らない。今晩の初老の運ちゃんはのっけから口を固く横一文字に結んだまま、無口そうな雰囲気を一身に背負っている。小生は窓外を流れる夜の街を肴に黙って酒をすすった。
すると10分ほどして半蔵門手前に差しかかった頃に「お仕事ですか?」ときた。「はい」。するとぽつりぽつりと話し始める。業界を襲う03/11以降の壊滅的な景気、自分の職歴、現在の疾病状況。出てくる出てくる。中でもかなり突っ込んで訊いたのが、30年前までやっていた「地下鉄掘り」の仕事。炭坑夫よろしく、その昔は地下鉄のトンネルを専門に掘る職業が東京にも存在した。その方々のご苦労あって、我々は東京の隅々まで電車移動ができるわけです。
そして運ちゃんの話しの何がおもしろかったかって、当時の国土交通省の役人と営団地下鉄、実際の工事を受注していた建設業者の現場責任者などの間に当然のように蔓延っていた「不正」の暴露話。このネタどこまでが本当なのか定かではないので詳細は伏せますが、いやあ運ちゃんの話しは面白かったなあ。話し慣れしている感じから自分の十八番ネタのようで、まあ止まらない止まらない。そして目印のロイヤルホストを大幅に通り越してしまったのだった。