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朝からぐにゃんとした頭を抱えて浅草の隅田川沿いを歩いていた。向かう先は川を越えた向島という街であって友人の撮影の手伝い二日目であった。

最近、作家檀一雄が友人太宰治&坂口安吾との交友録を収めたエッセー集を読んでいて、太宰治と放蕩の限りを尽くしたエピソードにも頻繁に登場した戦後の赤線地帯「玉の井」がなんだか自分の中でクローズアップされていて。そこは吉行淳之介の「驟雨」という傑作小説の舞台にもなっていて、その時代背景が醸すロマンチシズムとか、生命力とか、怠惰な性の原風景とか、なんというか失われた日本の排他的な美意識というのか、なんだか非常にその「亡きものとなった街」に興味を持っていて。そもそもその頃の作家が好きだということもあると思うのだけど、ちょこっと興味を持ってググってみたらなんとその街が展開していた場所が本日用があった友人夫婦が居している場所のすぐそばだった。

夏前ころにその事実はつかんでいたのだけど、今の今までパトロールに行けずにいたもんで、まあ今日こそはふらっとその旧花街を歩いてみたいと思ってでかけたのだった。それも当時の淫売宿は細かいカラフルなタイルを壁面に貼付けた建物であって、それが半世紀以上経った今も残っていて、しかもそれらは現在も住居として活用されているというのだから時代を越えたロマンが炸裂している。個人的には非常にぐっとくるポイントで。

さて、その街が存在していたのは今は「鳩の街」商店街として昔ながらの八百屋や定食屋が軒を連ねる道幅も5,6メートル程しかないとても細い横丁といった風情。入り口の水戸街道からわずか200メールほどの商店街で、建物は隣通し壁をくっ付けひしめき合っている。現在は明らかにその活気を失った閑散とした姿ではあるものの、その昔の賑わいを空気の中に感じる気がした。入り口から終わりまで、両脇の建物を丁寧に見て歩いたけど、残念ながら当時の姿を残したタイルを貼った建物は一件しか発見できなかった。今も人の営みが存在する建物ではあって、時代のロマンスをひとり噛み締めて歩いたのだった。といっても所要時間わずか10分たらず、車が出発までの寸暇を使ってきょろきょろしたまでのこと。

今度はもっとゆっくり酒でも片手にぶらりと歩いてみようと思った。